塾講師のバイトを終わると、教えていた生徒に「今からディズニー行ってくるよ」と言う。
その女の子は、わりと大げさに目を丸くして驚いてくれた。
僕だってびっくりだ、こんな風に時間の隙間を綺麗に使って、旅行に行くことになるとは。
ひどい風邪で旅行をキャンセルした時、もう今年のディズニーは諦めようと思っていた。
だがしかし、本気で探せば何とかなるものだ。
彼女がバイト後でも乗れる時間の夜行バスを見つけてきたときに、
計画は始めて具体性を帯び、あれよあれよといううちに、
僕は駅の近くのバス停で、白い息を吐きながらバスを待つことになった。
イヤフォンからはストレイテナーの「リニア」が流れていた。
家を出て、自転車を走らせた時からずっと聞き続けている。
これで僕は、このアルバムを聞きながら夜の街を走るたびに、
この旅行のはじまりを告げる冷たい空気の匂いを、ディズニーランドを思い出す。
そんなセンチメンタリズムはさすがに沸き起こらなかったが、
それでも電車に揺られている僕を、少しずつ少しずつ高揚させるには充分だった。
しかし、早く着きすぎたな。こんなに寒い中待つことになるなんて。
違う駅からバスに乗った彼女から、現状報告メールが届く。
集合時間には遅れたようだが、それでもバスにはしっかり間に合ったらしい。
僕はコンビニで雑誌を読みながら(結局リア・ディゾンのグラビアは見れなかった)、時間をつぶす。
お腹が少しすいていたが、バスの中での腹痛は辛いので、結局何も買わずに出て行く。
ほしのあきはあとどれくらいグラビアを続けられるのだろうか、
そんなくだらないことを考えていると、どうやらバスが来たようだ。
バスの中は少し高いお金を払っただけあってゆったりと広く、足が伸ばせた。
彼女が気を利かせてブランケットを二人分取ってきて僕に渡す。
ノーメイクらしかったが、夜のせいかほとんどそれは分からず、肌はむしろ綺麗に見えた。
バスはゆっくりと僕等を東京に運んでいく。
もう午前0時を回っていて、すぐに電気は消される。
目を閉じると隣から、甘ったるくてくたびれた、ホットケーキのような甘い匂いがした。
「今日の私は、すごくいい子じゃない?」
「そうだね」
「明日と明後日で、何回私の機嫌が悪くなるかな?」
「うーんと、たくさん」