日記17

相変わらずテスト、レポート、テストとそれなりに(むしろ前以上に)忙しい毎日を送っている。
白いペンキ塗りは一日のノルマが増えた。しかし、時給は上がらない。そんな感じだ。


そんな僕は、今日も寝不足のため授業に大幅な遅刻をしていった。
(「おはようございます、社長」と友達に言われるくらいの思い切った遅刻だ)
授業が終わると、すぐに大学の図書館に向かう。テスト勉強をしなくちゃ。
注意深く全体を見て回り、人が多すぎず、少なすぎない絶妙な環境にある机を選んで座る。
最初の10分はもっぱら勉強中に聞く音楽選びだ。これによって、効率が変わってくる。


勉強の合間には、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」をちびちびと読んで気分転換。
幸いに二回目なので、おおまかな内容は頭に入っているから、
スローペースかつ断片的に読んだところで、話を忘れてしまうことはない。


読書中のBGMは、Thee michelle gun elephantかWorld's End Girlfriendに決めている。
たくさん聞いて、たくさん本を読むといいと、塾の女の子は言った。
ならば聞きながら読めば、もっと劇的な効果があるんじゃないか?
そんなことを思いながら少しだけわくわくしていると、
気分転換のひととき(それはひとときと言うには少し長いかもしれない)はより楽しくなる。


……少し饒舌に書きすぎたかもしれない。しかし、それには理由がある。
心を落ち着けるため、と言う理由が。
つまり、僕は今酷く興奮している。夢の続きを見ることができたから。



交差点にたどり着くと、遠くに空白になっている駅が見えたが、そこには向かわない。
彼女は古ぼけた文房具屋のある、細い道のほうに曲がっていく。
いつも満面の笑みを浮かべているのが印象的なお兄さんが、
小さい子向けのアニメの主題歌を口ずさみながら僕の横を通り過ぎていった。
どうやら、まったく人がいないわけではないようだ。極端に少ない、ということらしい。
僕はそれを知って、少しだけほっとした。
いないと少ないでは、あまりに印象が違う。誰もいない図書館で勉強するのは嫌なのだ。


そして、文房具屋のある角はまた交差点になっていて、そこを彼女は左に曲がった。
握り締められた手には、さらに力がこめられ、歩みはますますはやくなる。
もしかして、目的地が近いのだろうか。
この辺にあるのは、僕が昔に通っていた中学校ぐらいのものだけど。


しかし、彼女は中学校に行く道には進まずに、まっすぐ進んでいく。
この道は良く通る道……この時、僕にはもう一つの行き先が思い浮かんだ。


そのまさかだった。彼女は歩みを止めたその場所は、僕がバイトしている塾だった。
一体どうして?バイト先の塾はどちらかというと現実感のある場所で、
夢の中にでてくるにしては、神秘性が足りないと思った。


彼女は僕のほうを振り返り、不機嫌な時に見せる、映画の悪役のような笑顔を僕に向けると、
引き戸を大きな音を立ててぞんざいに開けた。


引き戸の奥に立っていたのは、なんと塾の女の子Kだった。





目を覚ました時、時計は19:24を示していた。
40分が過ぎている。気分転換にしては長すぎる時間だ。
顔の下には「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」が開いたまま置いてあったが、
どうしてかよだれでべちゃべちゃになっていることはなく、ほっとした。


僕は興奮状態がさめずにいて、とりあえず、引き続きミッシェルを聞きながらコンビ二まで歩き、
ハッシュドポテトを買って、それを食べながら図書館に戻った。
しかし一向に勉強する気にはならずに、
今日は家に帰ってレポートの続きをやろうと決意して、大学の最寄り駅に向かう。


帰りの電車の中では、ずっと夢のことについて考えていた。
彼女が会わせたかったのは、Kさんで間違いない。
しかし、Kさんと彼女にはまったく接点がないはずだ。
もちろん、このブログのせいで、お互いに存在は知っているだろうけれど。


僕はすぐにでもKさんに会って、このことを伝えたかった。
だが、あいにく忙しさのために塾バイトをかなり休ませてもらったから、会えるのは当分先だ。
このブログを見ていてくれればいいが、コメントから察するに、それもあまり期待できない。


僕は途方にくれ、とりあえずレポートの続きに取り掛かるのだった。


「K(夢日記)」2007.06.27.2:30am