先人のベギラマへ忖度しながらジゴスパークを打ち続けろ

今日はお客さんとの打ち合わせでとても衝撃を受けることがあったからぜひ聞いてほしい。
打ち合わせの発端はありふれていた。黙示録である仕様書に問題が発覚し、我々下々の民は現状を分析して報告し、その問題をなるべく小さい範囲で解決しようとしていた。

ところで僕らのソフトウェアの世界では大きく二つの考え方がある。一つは中央集権型。ある仕様とある仕様で共通の部分があったら、それを一人が実装して後の二人は何も考えずにそれを使えばいいという考え方だ。なるほど、たしかに一つきっちり作れば、あとは考えなくていいから楽ちんでわかりやすい。

しかしこの考え方は使う人が数えるぐらいの時にだけ成り立つことがわかってきた。利用者が10人、100人と増えていき、微妙に使い方が違ったりすると中央部分が歪になりぶっ壊れる。ソフトも人類と一緒で、数が増えれば一つの政府だけでは成り立たなくなるのである。その考え方はSOAソードアートオンライン、ではなくサービスオリエンティッドアーキテクチャ、とか、もしくはマイクロサービスとか呼ばれる。つまりは、みんな政府に頼らずそれぞれできることをがんばろうぜ、というスタイルである。

しかし、私はあたかも当たり前のように中央集権型を語る神々たちに苦しみ続けてきた。何も同じことを説明すればいいのか、時代遅れで草、それ、江戸時代に流行った考え方ですよね、FAXを電子データにするの尊い仕事ですね! と、言いかけたのを何度も理性で留めてきた。今回も同じように、江戸時代手法を忖度しつつ作られたパートナーのソフトとバランスを保ちつつ線を引く繊細な交渉と思っていた。「FAXも大事ですよね!」と笑顔で言う準備はできていた。

結果は違った。彼らはもう、中央集権型をきっちり捨てていたのだ。

えっそんなことやってないですよー。もう中央政府はほとんど仕事しないことにしちゃいました。笑
FAX残すの検討したけどお金かかっちゃうから無理だったんすよねーえへへ。

僕は頭がぶん殴られるほどの衝撃を受けた。

最近神々と会話してまだ江戸時代型が根強いと思っていた最中に、現場の最前線はそれをあっさり捨てていたのだ。室井さんが上層部と抽象的な話を繰り返している間に、織田裕二はテレワークを始めていたのだ。踊る! 大捜査線! 事件は会議室で起きているわけじゃない! 自宅で起きているんです!

内心、ちょっと調子に乗っていたところはあるかもしれない。古の神々と接しすぎて、現場の進化をなめていた点はあるかもしれない。僕が苦心して作ったマイクロサービスの設計、もう当たり前のようにみんながやっていた。じゃあ問題なんて大したことなかったじゃないですか、そうなんです。会議はのんびりと終わりをむかえ、僕はチームメンバーにことの顛末を報告した。誰かに話を聞いてもらいたかっただけかもしれない。

神々が今苦しんでいる。どうしてうまくいかないんだと悩んでいる。僕は先輩とその理由を考察して、彼らはドラクエ1の成功体験で生きているからじゃないかという仮説を立てた。つまり、最強の呪文はベギラマだったころ、確かに竜王ベギラマを打てばエンディングが迎えられた。

しかしドラクエ11にはもう特技がある。MPがなくてもしゃくねつのほのおでモンスター全員に150ほどのダメージが与えられるし、バイキルトで攻撃力を二倍にできる。それにボスも対応し、後半のボスは大体がいてつく波動バイキルトを無効にしてくる。すると防御力無視のかいしんのいちげきもまた立派な戦術になる。

神々はベギラマの修行を怠る僕を、MPを上げる不思議なきのみを血眼で探してベギラマの打てる回数を増やさない僕を、不真面目にすら思うだろう。テレワークでも顔出しとスーツ着用を命じるだろう。しかし、ぐーぐるは、ジゴスパークを使ってくるんです先輩! うるさい、ドラクエの本質はベギラマなんだ! ベギラマをなぜ練習しない!! 彼らも彼らで、ドラクエという名を冠すのに大きく変わってしまったゲームシステムに苦しんでいるのだろう。

しかし今日はっきりと分かったが、一見忖度してベギラマを大事そうにしている物わかりのいい現場の民たちも、裏ではしっかり職業熟練度をあげて息系の特技を覚えたり、かいしんのいちげきを頻発する魔神の金槌を錬成したりしているのだ。それで上司にまあ、ベギラマのようなものですと説明してうまくやっているのだ。僕は若干の軋轢と引き換えにジゴスパークを使っている、それで調子に乗ってはいけない。はやく新しい技をもっと覚えなければ。

時代の流れは残酷だ。コロナウィルスが下下の民に教えたテレワークも多分同じようなことになる。神々が「しかしやはり、顔を見せて話し合わなければ」「はんことITの両立」とか言って悠久の時を検討に使っている間に現場はどんどんテレワークでの最適な働き方を見つけていく。それはもう避けられないことなのだろう。

それでも、ドラクエ1ベギラマを忘れられない人たちはどうすればいいのだろう。それに対する答えは一つ、そう、YouTuberになってドラクエ1RTAをやろう。そうやって世界は優しさをきっと失わずにいてくれる。僕は時々その動画を見て、ベギラマって強かったんだな、とコメントしつつも、現場の音速の進化に振り落とされないようにしたい。最近、のんびりとしすぎていた。移動の時間をゼロにした、最高効率のテレワークが守られている今こそ、加速が必要だ。