2021年ベストソング10選

いつものごとくiTunesの再生数によって、2021年発表の曲を機械的に選びつつ、同じアーティストの重複を省いています。()内は僕のiTunesにおける再生回数です。

今回はもったいぶらず目次も先頭に。

10. U/millennium parade & Belle(32)

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今年の紅白はこの曲がベストだった。ずっと関ジャムなどで玄人たちに絶賛されていた中村佳穂(Belle)がついに細田守の映像の力とKING GNUのヒップホップを色濃く感じさせるトラックに彩られてお茶の間に見つかった!

紅白のパフォーマンスは圧巻で、まるでステージというより呪術であり日本のBjorkと言っても過言ではないのでは、と聞きほれてしまった。このむちゃくちゃ歌いづらそうなメロディを持つ曲を完璧に歌いこなし「ライブのほうがいい」と思わせてくるアーティストは中村佳穂だけ。

8. ロウワー/ぬゆり(33)

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恥ずかしながら今頃知った人気ボカロPぬゆり氏の最新曲。ジャジーでどこまでも下降していくような格好いいフレーズがいかにもボカロ曲らしいブリブリの矩形波ベースと4つ打ちでまとめ上げられてとても気持ちいい。ぬゆり氏の曲は全体的にジャジーなので、当然生演奏Jazzカバーもあるのだが、不思議と物足りないのでやはりこの曲はDTMの極地みたいな曲なんだろうと思う。そのせいかボーカロイド「Flower」の声のままでいいなと思わせるのも特徴の一つ。無理に歌い手を探さなくても、このままで完成している、そんな希少なまさに「テクノ」ソング。

8. Beautiful World (Da Capo Version)/宇多田ヒカル(33)

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2021年はエヴァンゲリオンが終わった年だった。映画が終わる瞬間に完璧なタイミングで鳴ったOne Last Kissは当然感服したのだがその後シンセサイザーの余韻が残るなか、贅沢なアコギの残響の中で「Beautiful World」というフレーズが聞こえてきた瞬間がシン・エヴァ全編の中で、いや、新劇場版の中で一番感動した瞬間だった。二回目はこの瞬間を聞きに行ったと言っても過言ではない。

誰もが気軽に録音し歌を歌えてしまい、プロとアマの境界線が曖昧な今でもなお、やはり1000万人に1人の歌声を持つ彼女の声だけは、1000万のスタジオで録音されたものを映画館の1000万のスピーカーで大音量で聴きたい、そんなことを思わせる圧巻の一曲。

7. Inori - 祈リ/岡部啓一(34)

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2022もニーアシリーズの勢いは止まらず。なんとオリンピックの入場曲になった「イニシエノウタ」はトラブル続きで危ぶまれた開会式の負の印象を(少なくとも僕の中では)完全に塗り替え、ゲーム音楽というマイナージャンルの勝利を高らかに奏でたとてもメモリアルなものにしてくれた。

そんな中で当然レプリカントリメイク版のサントラもたくさん聞いたが、一番印象に残ったのはこのスマホアプリ版Nierのテーマソング。どこまでも真っ白で退廃的で虚無感しかないこの悲しいピアノエレクトロニカに讃美歌のような美しいメロディが乗るこの曲。どうしてこんなに恵まれた世界で、僕らは楽しくないんだろう、そんな気持ちに寄り添ってくれる新時代のサウンドトラック。

6. Off With Their Heads/Mori Calliope(37)

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このランキングは2022年発売の曲の中から選んでいるのだが、その制約を取り払えば一番聞いたのは、森カリオペの1stシングル「失礼しますが、RIP」だ。

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彼女はずっと日本のインターネットラップ界隈というアメリカで言えば超超マイナージャンル(そもそも日本の曲はすべてアメリカではアンダーグラウンドである)で活動しており、それがVTuberというカルチャーの後押しによって、ついに日の目を見たという非常にドラマチックな経歴を持っている。なんとこのエミネム系列の高速ラップ、日本人にも受け入れられ2700万再生(2022/01/12時点)を記録している。

VTuberというジャンルが海外に受け入れられたことで、海外の音楽が日本に受け入れられ、結果僕の大好きな邦楽と洋楽が相互に影響を与え合う。2021年の音楽、面白すぎ。

・end of a life(33)

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今、森カリオペの中でももっとも気に入っているのはこの曲。チルアウト系の繊細なトラックの中で紡がれる切ない歌声とラップは、どこか「売れたことはうれしいけれど、ほんとうにこれでよかったのか」という自嘲を含んでいるよう。ヒップホップらしい素直な心情の吐露はとてもバーチャルとは思えない「リアル」。

・KING Gawr Gura x Calliope Mori Cover(14)

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ホロライブ所属のVTuberの中でも特に歌がうまい二人が、ごってごての日本製ボカロ曲「KING」を洋楽らしい音数を絞ったアレンジに乗せて自由に歌う。途中さしはさまれるスキャットは海外シンガーの圧倒的な「リズム感」を強烈に感じさせる。こんな歌ってみたが投稿される日が来るとは。

5. 優生夢死/Eve(37)

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呪術廻戦のアニメOPで一世を風靡したシンガーソングライターEveの最新シングルより。美麗なアニメーションが付けられたPVは売れてしかるべきという感じでありながらも、とてもプライベートで丁寧なコーラスとサビっぽくない静かな盛り上がりで丁寧に紡がれたこの曲が一番気に入った。最近の曲は3分たらずでも物凄い起伏が激しいのだが、この曲の4分は一昔前のアルバム曲のようで、ささやか。それがとても心地よい。

4. 怪物/YOASOBI(38)

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ぬゆり氏の曲でも前面に出されている要素(それもかなり日本のボカロでは長く流行っている気がする)ブリブリの矩形波ベースをYOASOBIがやるとこうなります、みたいな曲。一見YOASOBIにしては平坦なようにも聞こえるが、実は転調を繰り返しまくっておりカラオケで歌うととっても難しい。そのつかみどころのなさも怪物という名の曲が持つ世界観に合っていて、まさに小説を曲にするユニットの真価を発揮しているように思える。

3. 3時12分/TAKU INOUE & 星街すいせい(41)

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毎年このランキングで紹介しているアイドルVTuber「星街すいせい」が今年は音楽に集中してくれた! もともと歌がうまいことに定評があった彼女だが、今年の活動で歌声はさらに洗練され、「歌がうまいVTuber」から「(バーチャルなアバターで活動する)シンガー」と、僕の中の認識を改めさせられた。そんな彼女の中が今年出した曲の中でも、この「3時12分」はアイマスなどの作曲で知られるTAKU INOUEの都会的なトラックに乗って「朝が憎い。朝なんて来ないでほしい」と配信で吐露する完全夜型の彼女の憂いを帯びた少年のような歌声にマッチする素晴らしい仕上がりとなっている。

・Stellar Stellar(40)

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この曲はアルバムのタイトルトラック。夜が好きすぎて朝が憎いという気持ち(注:本人解説より https://www.youtube.com/watch?v=irhxT32cm6E )をうまく売れずに膝を抱えるアイドルの姿と重ねた本人作詞の歌詞がとても素晴らしい。TAKU INOUEの高性能PCが落ちる寸前まで執拗に重ねられたシンセやホーンやストリングスといった楽器達が高らかに星街すいせいの勝利を

そうだ僕は星だった

と祝うこの曲は、

今夜、不可能は可能になる

と歌ったスマパンの「Tonight, Tonight」のような圧倒的な高揚感をくれた。

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2. フォニイ(町田ちま版)/ツミキ(41)

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フォニイ(偽物)という名を冠すこの曲は

この世に造花より綺麗な花はないわ

と、「野に咲く花」を美しいとしがちな過去の感性を真っ向から否定する衝撃的な冒頭から始まる。誰もがSNSを何個も使いそれぞれで微妙に違う自分を演じ続けるこの時代は

なぜならばすべては嘘でできている

からこそ、最悪で、美しいのかもしれない。

この明確なテーマ性と美しいメロディを持つフォニイは、その歌詞の内容と相まって仮初のアバターを用いて活動するVtuberにこぞってカバーされた。その中でもこの、にじさんじ所属、歌中心のVTuber「町田ちま」のカバーは素晴らしい。冒頭効果的に使われたエッジボイス、最初は感情を抑えてラストのサビ前で激情を爆発させる構成、最小限のエフェクトとハモリは素の歌声への自信を感じさせる。そもそも「歌ってみた」という言葉は「まあ、プロシンガーとは比べるべくもないけれど、【歌ってみた】から聞いてよ」という自嘲的な要素を含んでいたと思うのだが、それも紅白にまふまふが出場する今では昔の話なのだろう。

聞き手に刺されば刺さるほど、新たな解釈のカバーが出続けて一曲が末長く愛されるこの歌ってみたシステムにおいては、フォニイのような「今」を体現した歌詞を持つ曲が強い、そんなことを感じさせる一曲。

1. ギラギラ/Ado(51)

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やはり今年はAdoの年だった。生意気で壮大な冒頭から、居酒屋で新人社員が吐く愚痴みたいなこぢんまりした感じに落ち着く歌詞が特徴の(褒めてます)うっせえわが1億再生し、この七色の声を持つ学生シンガーのAdoが注目されたのだが、そのAdoの曲の中でも最も気に入ったのがこの曲。てにをは氏はフォニイのツミキ氏同様に抜群に歌詞がよく、動画全盛の昨今では歌詞の良い曲が強いと痛感するのだが、特にこの歌詞である。

Ugly 正直言って私の顔は
そう神様が左手で描いたみたい

~中略~

もしも神様が左利きならどんなに幸せか知れない

可愛く生まれなかった主人公の境遇をこれほどまで美しく表現できるとは。曲調がいわゆるわかりやすいボカロのテンポ170付近の四つ打ちではなく、少しレトロな感じなのもAdoの表現力豊かな歌とマッチしていて素晴らしい。結局のところインターネットとは基本的に「顔出しのない文化」であり、ひいては神様に左手で描かれた人達の逆襲なのではないか、そんなことも感じさせてくれる、フォニイ同様「今」そのものを表現した曲だと思う。

・Pick Up!!!

ここからは再生数は圏外だったがどうしても語りたい曲。もはやYouTubeで曲を聴くことも多くiTunes上の再生回数という指標が危うくなっていることの証明でもあるのだがそんなこんなでこちらもぜひ。

xx. 神っぽいな(せかい版)/ピノキオP(0 YouTube上で聴いていたため)

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なんにでも神、神と絶賛する現行の文化への皮肉たっぷりな曲。僕の中で「ボカロパンクロッカー」である尖った歌詞が印象的なボカロPのピノキオPは未だにトップを走り続けていた。なんとこの曲、曲調が「よくあるヒット曲の要素詰め合わせ」でできており、うっせえわのようにサビはオクターブを上下し、アニマルのように「とぅとぅとぅ」とキャッチーなコーラスが入り、ロウワーのように台詞が入り、2回目のAメロではテンポダウンし、ラップする。どうせこんな曲が好きなんでしょ、という強烈な皮肉を突き付けておいて歌詞の最後で

すべて理解して患った 無邪気に踊っていたかった人生

と「売れる要素を理解して皮肉ってしまった」自己への痛烈な批判で収束するというあまりにも劇的な幕切れが用意されている。なおこの辺の仕掛けに恥ずかしながらも僕は最初気づかず、ツイッターで流れてきた考察から理解したのだが、このあまりに衝撃的な仕掛けにほとんどの人は気づかずに単に「格好いい曲」として消費している(僕もそうだった)この状況含めて、あまりにも出来過ぎた曲。

12. Unison/宝鐘マリン & Yunomi(28)

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今年もVTuber事務所ホロライブ躍進の年であり、前述の星街すいせいの活躍もめざましかったが、衝撃度No.1だったのはこの曲。1stシングルが思いっきりアニソンだった宝鐘マリンが次に選んだジャンルはまさかのミニマルテクノ。いったいどんな経緯で宝鐘マリンが知る人ぞ知る先鋭的なクリエイターYunomi氏に発注したのか、想像もできないが、まさに今新しい時代を作っている最先端の感性がこのコラボを実現したのかもしれない(なお、ホロライブにおけるこのようなオリジナル曲製作は事務所は介入せず発生費用も自腹だそう(諸説あり)。そこまで音楽に熱中しているように見えなかったが……最先端のエンタメを求め続ける攻めの姿勢がこのコラボを産んだのかもしれない)

リスナーを突き放すようにまったくコード感のない硬派なミニマルテクノに、幾重にも重ねられた彼女のいわゆる「萌え声」による歌声がうっすらとコード感を感じさせたりさせなかったりして突き放したリスナーに再び近づくかと思うとまた離れる。歌詞は完全に言葉遊びで意味から解放されて極めて楽器的に奏でられる。音は完全に洋楽のそれだがボーカルが流行りのASMRのようにも思えてギリギリのところでライトな層にも届くように配慮されている。

Vtuberからこのような音楽が出てきたことで僕は未だVTuberという文化の底を理解できてなかったなと実感した。なお、この曲は各方面のクリエイターにも当然刺さっており、なんと僕の永遠の青春であるナカコーまでこの曲を絶賛している。

https://twitter.com/iLLTTER/status/1425451430819733508

ついさっき公開されたVtuber宝鐘マリンの新曲「unison」 めっちゃ凄い!楽曲を作ったのはYunomiさん。こういったポップカルチャーに先端の表現が交わることはとても凄いことだと思う。 音楽によって何かがアップデートされた瞬間を見たような感じがした 

https://youtu.be/_VIeV_LZXHM

ん、ナカコ―?……最先端とか言ったけれど、実はずっと昔から僕の好きなものは変わってないのかもしれない。

15. ACTION (with ZAZEN BOYS)/CHAI(21)

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年末のZAZEN BOYSのライブは圧巻だった。新しく加入したmiyaのベースによって、これまでの鋭角なグルーヴとはまた違うルーズさを含んだ踊れるグルーヴになり、特にASOBIやHONNOJIはほぼ新曲のように感じられた。この踊れる感覚への回帰は半透明少女関係のセトリ復活にも表れている気がする。PCで隙間なく正確に編まれた曲もよいが、やはりこの人間が奏でる音の隙間こそが愛おしい。

というわけで実質向井の5年ぶりの新曲。「ACTION」というキーワードを「突っ立ってどうしたい?」という自分への自問自答に変化するリリックはまさに向井そのもの。「大人になればもう少し マシになると思ってた」と未だに歌ってくれる向井には永遠にそのままでいてほしい。恥ずかしながらCHAIははじめてちゃんと聞いたのだが、原曲も電子音主体のキラキラした音の中で非常に「隙間」によって作られたグルーヴを感じさせるもので、異色でありながら納得のコラボシングルであった。最高。

2022は僕も肉体に回帰する、かも、しれない。

 

去年のはこちら:

2020年ベストソング10選 - 夕べの夕陽の眩しさの理由。