日記6

それは見覚えのある風景だった。多分家の近くだろう。
ただ、親しみ深いはずのその風景は、どこか僕に違和感を生じさせた。


ふと気付くと、彼女が遠くからこっちを見ている。どうやら、不機嫌なようだ。
僕が不甲斐なさや、手際の悪さを披露した時の表情が、はっきりとその顔に浮かんでいる。
それは僕の酷く苦手な表情で、いつものように、胃がきりきりと痛んだ。


彼女は何も言わずに、僕の手を強く握り締めると、確かな足取りで僕を引っ張って進んでいく。
僕は彼女のなすがままに、見覚えのある町並みを進んでいく。


そしてふと違和感の正体に気付く。この町のほとんどは、張りぼてなのだ。
別にその建物の裏に行って確認したわけではないのだが、僕はそう確信した。
町はまるで夜中の一時に自転車を走らせた時のような、静けさとよそよそしさに満ちていた。


ある交差点にたどり着くと、その先にあるはずの駅の部分が、真っ白い空白に覆われていた。
僕は彼女のほうを見た。なぜか、顔をはっきりと覗き込むことができなかった。





水曜日の講義は、先生の口調が一本調子だからだろうか、とにかく眠い。
僕はイヤフォンを付けたまま教室に入ると、それを外しもせずに、教科書を取り出す。
「インターネット、端から端まで(world wide web - from end to end)」
という本はとにかく厚く、枕にはおあつらえむきだった。
連日の夜更かしもたたって、僕はすぐにその上に頭を乗せた。


気がつくと、2曲目だったはずのミッシェルのアルバムが、13曲目に差し掛かっていた。
一曲も飛ばした覚えはないのに、不思議なこともあるものだ。


そして、この暗示的な夢に気分が高揚した僕は、一枚のルーズリーフを取り出すと、
覚えていることを箇条書きで書きなぐった。
これで今日の日記に書くことができた、そんなことを思いながら。


張りぼての町(夢日記)」2007.5.2.23:20pm