「ファイアーエムブレムif 暗夜王国」総評

ネタバレ全開です。しかし、15年ぶり*1ファイアーエムブレムの総評書くな……。

 

ファイアーエムブレムif 暗夜王国 ★★★★☆

他のシリーズ:ゲーム本棚。 - 夕べの夕陽の眩しさの理由。

 

はじめに

 僕はファイアーエムブレムが怖い。というのも、蒼炎の軌跡暁の女神にドはまりして、夏休みを溶かしてしまったからだ。このゲームにはまると、このゲームをプレイすることが毎日の目標になってしまう、そのことに気づいた僕は、その後、GBAの「封印の剣」「烈火の剣」「新・暗黒竜と光の剣」を我慢できずに買いつつも、支援会話などもそこそこに流しでプレイしていた。「風花雪月」もおそらくほとんどのユーザが3周目ぐらいにしか使わないであろう「休息」を使って流していたら飽きてしまい、途中で放り出してしまった。

 

 しかし、今年久しぶりに「風花雪月」に真面目に向き合った。流してプレイするなんてやめよう、ゲームのプレイが毎日の目標になったからと言ってなんだ。今の僕には逃げることのできない仕事があり、2ヵ月宿題もなく放置されることもない。そこで、初回プレイ時には放置していた好感度上げや釣りなどの要素を真面目に取り組んでプレイしたら、鬼のように面白い。これだ、これが僕がゲームに求めていたものだった。思い出した。

 

 「風花雪月」を2周して、あらためて、このシリーズの中で描かれる「戦争の中の人間たちの関係性」が僕を惹きつけてやまないことを理解した僕は、3周目をする前にふと思った。タンスの中に眠っていた、3DSと「ファイアーエムブレムif」を御馳走の前にさらっと前菜的にプレイしてみたいと——。もう、迷わない。支援会話も通信要素も、なんでも全部楽しみきってやる!

 

 そしたら「風花雪月」に戻れないぐらい、夢中になってしまったのだった。

ストーリー

あらすじ:主人公は暗夜王国で怖い王様の下軟禁されながらも、優しい家族たちに囲まれて育った。しかし、主人公は知ってしまう、自分は本当は敵対する白夜王国の出身であり、そこに本物の温かい家族がいることを。そんな暗夜王国白夜王国の全面戦争が始まる——主人公はいったいどちらの陣営につくのか。

 そもそも3DSにて「覚醒」と「if」と選択肢があったのに、僕が「if」を買ったのは、このいかにも殺伐とした要素のせいである。「風花雪月」の類稀なる重厚なストーリーのような、正しさを求め迷う人間の生々しい姿が描かれるのではないか。

 しかし、結論から言ってしまえば、このゲームの本質は「風花雪月」のような三国入り乱れる群像劇、ではなかった。どっちかと言えば、王道の「仲間と悪の大王を倒す」というストーリーである。正直期待外れだったところがある。

 主人公は本当に甘くて、自分の正義の下に時には白夜兵を涙ながらに殺戮するかと言えば、まあするときもあるけど、大体は分かりやすく悪い軍師や、悪に取りつかれた王様が同席した結果であり、基本的に全員命を救う気満々である。バリバリの正義なのだ。

 そのうえ無茶苦茶意志が弱い。仲間が身を挺して主人公を助けると、大体そこで悲しみに沈んで立ち止まってしまい、ヒロインのアクアとかに諭されて「そうだね、僕はここで立ち止まってちゃいけないんだ!」みたいにやっと決意する。自分の分身であるのがちょっと嫌になるぐらいである。一応戦乱の時代のリーダー格なんだからもう少し頑張ってくれ……。

 ここに関しては、まあそもそも売り方が悪いだけで「育ての家族、生まれの家族、どっちも大事で、悪いのはドラゴン」みたいなのがこのストーリーの骨子っぽいので(ぽいというのは暗夜編しかやってないから)、まあそれはそれでいいかなあと思ったのだが、だったら「暴走する暗夜王国を内側から変えようと試みる」という謳い文句を言っちゃ駄目である。というか、もともと家族はいい奴ばっかりなので、内側は全く変える必要がない、軍師と王様だけが悪い、こいつらを殺せばいいだけである。これなら、最初からどっちにも所属せず中立国で仲間を集める、DLCインビジブルキングダムだけのほうがよくストーリーの骨子が伝わるのでは? と思ってしまったのだった。

 少なくとも「風花雪月」のような重厚なストーリーを期待すると肩透かしなので、気を付けてほしい。Switchリメイクでは最初からインビジブルキングダムルートを選択できるようにしてもいいかもしれない。

キャラクター

 キャラクターは魅力的である。「覚醒」からコザキユースケ氏による、美麗で「今っぽい」イラストに変わっていて、2023年現在でも古臭さは感じない。ただ、キャラ造形は正直硬派な「暁の女神」が売れなかったせいもあって、かなりコビコビで軽いところはある(これはおそらく「覚醒」からだろう)。

 「ツンデレ」「ヤンデレ(というかサイコパス)」「男の娘」「ドジっ子メイド」「腐女子」など当時の流行りがあからさまに反映されていて、今となってはどうしても古臭く感じるところがある。2023年にこのゲームが出ていたら「ツンデレ」はもういないかもしれない。

 ただ、ファイアーエムブレムの伝統である、細やかな支援会話やエンディングの後日談を持ってその人の人となりがわかるシステムは素晴らしい。これがあるので、支援会話を無視できないのである。

 また、キャラごとの性能差は作りこまれていて、難易度ハードでは安直に強キャラ無双もできず、強キャラ以外も育ててマップごとに生かす、というバランスが保たれていた。戦闘で活躍できるかどうかは、キャラクターを愛するための大事な要素。このあたりの調整はさすがファイアーエムブレムだ。

システム

 これまで文句ばっかり言ってきているが、このゲームにはまったのはこのシステムのおかげだと思う。ファイアーエムブレムの基本である三すくみに加えて、攻陣(隣り合ったキャラと一緒に攻撃)と防陣(後衛になり行動できなくなる代わりに前衛をサポートし、攻陣の連続攻撃をブロックする)という要素のおかげで、かなり頭を使わされた。また、竜脈という要素により地形変化ギミックが多彩で、マップごとに別の難しさがあり、何度も3DSを放り投げそうになりながらも、とても楽しんだ。

 ストーリーには文句があるものの、この「暗夜編・ハード・クラシック(死んだら生き返らない)」を選んだ時の難易度はかなり絶妙な調整だったと思う。正直ノーリセットだと普通に詰むレベルだが、通信要素による救済措置はなんと2023年現在も稼働しているので、もしこれからやる人がいたら安心してプレイしてほしい。なんだかここに密やかにSNS的なコミュニティが形成されていた形跡もあり(武器の名前が変えられることを生かして、メッセージを送りあいコミュニケーションしていたようだ)、久々に mixi にログインする時みたいな楽しさを感じた。

 実は僕はファイアーエムブレムはこれまでほぼSRPG要素はサブのキャラゲーとしてプレイしていたのだが、昔の僕が気まぐれに難易度ハードを選んでいてくれたせいで、ファイアーエムブレムSRPG的な楽しさを、初めて存分に味わえたと思う。正直なところ、各章のステージの面白さだけで言えば、今やだれもが認める名作の「風花雪月」よりも上かもしれない。僕は難易度ノーマルで全敵キャラをしっかり倒しきって制圧するのが好きなのだが、本作の難易度ハードを通して、そんなことは許さない、というマップで命からがら撤退したり、雑魚を無視してボスの一点突破を狙う楽しさを知った。

 タイトルの「暗夜」という響きに反してストーリーには歯ごたえがない本作だが、ステージの難易度に関しては確かに「暗夜」という響きにふさわしい調整だと思う。ラストステージまで、ギミックをきちんと理解しないとしっかり殺される難易度に悩み苦しみながらもとても楽しかった。

 というわけでゲームシステムに対しては絶賛しかないのだが、強いて言えば、拠点となるマイキャッスルのあまりにもご都合主義な設定(異空間に城を構えて拠点にできるとか、ドラえもんのスペアポケットかと思う。敵からしたら異空間に兵糧貯められるとかあまりに脅威だろうな……)とか、タッチペンで同性異性とコミュニケーションできるマイルームはやりすぎだと思う。

 マイルームに関しては結婚した相手ともなればかなりきわどい台詞まで発してきて、海外版ではさすがになくなったとか。というか正直、ファイアーエムブレムに実装されたラブプラスである。普通にほぼ初対面の相手をべたべた触るとかセクハラじゃねと思うので、おおらかな時代だったんだな、とか思ったり。

 ま、まあ別にやりたくなければやらなくていいので(支援を上げる方法は他にもある)過ぎたファンサと言ったぐらいか。「暁の女神」の売り上げ低迷にて、ファイアーエムブレムも過去の名作シリーズという立場に胡座をかかずに、しっかりとギャルゲー要素を入れたという意味では、意欲的と言えなくもないのかもしれない。

まとめ

 総じて、システム★5/ストーリー★3/あいだを取って★4という感じである。今プレイすると、分かりやすくこの「ファイアーエムブレムif」の要素を引継ぎつつ、完全に弱点を解消したのが「風花雪月」だと分かるが、それでも暗夜編のSRPGとして理想的なやりごたえは「風花雪月」を超えている気もして、ファイアーエムブレムシリーズの着実な歩みを感じてちょっと胸が熱くなる。

 ルナティックプレイが当たり前のプロエムブレマーではない僕のようなシリーズファンには「暗夜編・ハード・クラシック」のプレイをぜひ勧めたい。ただし今は、インビジブルキングダムは配信停止しているので注意。軽くネタバレを読んだが、ストーリーを楽しむならこのルートは必須である。あくまで、SRPGとして楽しみたい方へ、だ。

 

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