日記15

彼女が端正な顔立ちでありながら、あまり友達と言える人がいないのは、
その刺々しい言動もそうだが、それ以上に彼女の瞳に原因があると思われる。


今日も塾講師のバイトが終わると、会話をした。
だんだん話が続くようになったし、わりかし趣味があうことも分かった今日この頃だが、
彼女の黒髪と白い肌のコントラストの中にくっきりと浮かぶ、その二つの瞳はいつだって、
疲れているでも、憂いているでもなく、明確な「嫌悪」を浮かび上がらせている。
はじめに見たときは死んだような目だと思ったが、とんでもない、
彼女の目は生きて、そして嫌っている。何をかなのかはよく分からないけれど。


「最近なんだか地味に忙しくて、日記を書く暇すらないよ。」
「地味に忙しいって、不思議な表現ね。派手に忙しいって言うのもあるのかしら?」
「そこに突っ込まれたか。まあなんて言うか、レポートが不毛って言うか。」
「日記なんてつけているの?少女趣味なのね。」
「会話がワンテンポ遅れてるよ!いやまあ、日記って言うか、ブログだけど。」
「余計駄目だわね。ブログなんて、心の弱い人間が寄りかかるための、不毛な媒体だわ。」


彼女がその両目で嫌悪しているのは――ブログ?


「そこまで言わなくても。確かに一理あるけどさあ……まあいいや。
俺さ、そこで最近夢日記をつけてるんだ。でもあの夢の続き、見てないなあ。」
「夢の続き?夢って言うのは記憶の断片が、脳によってランダムに拾われ、
強引に繋げられてできるものなのよ。
続きどころか、そもそもストーリーがあるわけがないじゃない。」
「いや、でもその記憶の断片とやらがわりと大きな欠片でさ、それを何度も拾ったりとか、
そういうことならありうるかもしれないじゃん?現に俺、もう三回見たよ。」
「三回も同じ種類の夢を?」
「それも妙に暗示的でさ、常に彼女が手を引いて歩いてくんだ。
それで、建物がはりぼてだったり、駅があるはずの部分が空白だったりとか。」
「…………ふうん。そうなんだ。」
「そうなんですよ。なんとかして、またあの夢見れないかな。」
「ねえ、その夢はちょっと面白そうね。くわしく教えてよ。」
「ああ、それなら俺のブログの過去ログを見てもらったほうが早いよ。書いたの最近だし。」
「ブログね。気が進まないけれど、まあいいわ。ブログ名教えて。」



そんなわけで。わりと明確に覚えている会話の断片が示すように、
同じ塾講師で大学一年の彼女は、このブログの存在を知った。


夢のことを直接伝えず、あえてブログを知らせたのは、それを嫌悪しているらしい彼女の目に、
どうやってこの「日記もどき」が映るかに、興味があったからでもある。


ねえ、今……見てる?


「塾帰りのちょっとだけ長い会話」2007.06.11.23:54pm